ネットでよく見かける「資産価値が落ちないマンションを買うべき」というアドバイス
インターネット上でいわゆる「マンションクラスタ」と呼ばれる人々の発信を見ていると、「資産価値が落ちないマンションを買うことが重要だ」といった主張をしばしば目にする。このアドバイスは、果たしてマンション購入において本当に適切なものなのだろうか。ここでは、その妥当性について検討してみたい。
マンションの資産価値
マンションの資産価値の内訳
マンションの資産価値は、大きく分けて土地の価値と建物の価値に分類される。マンションは通常、ディベロッパーが土地を取得し、その上に建物を建設して区分所有の形で分譲販売される。
分譲マンションの販売価格の内訳を見ると、一般的には約30%がディベロッパーの販売管理費、一般管理費、利益に充てられている。残りの約70%が土地代および建物の建築費である。したがって、販売価格全体のうち建物部分の価値は、時間の経過とともに劣化し減少していくのが通常であり、これが中古市場における価格低下の主因となる。
いわゆる新築プレミアムという概念がある。新築マンションは、購入直後にその価格が5%から10%ほど下がるとされる。これは物件の立地や需要によっても左右されるが、基本的には「新築」であることに付随するプレミアムが剥がれた結果と考えられる。つまり、マンションは購入した瞬間から一定程度価値が下がる構造になっている。
ここでは、新築プレミアムが剥がれた後のマンションの価格がどのように推移するのかを考えていく。
先述のとおり、マンションの資産価値は建物の価値と土地の価値から構成される。このうち、建物の価値は経年劣化によって確実に減少していく。一方で、土地の価値は立地や周辺環境の変化によって上下しうるため、これが資産価値全体の追加の変動要因となる。
建物の価値の下落
マンションの構造は、基礎、躯体、外壁、内装、設備などから構成されている。マンションは適切に修繕・管理を行えば100年以上使用可能であるとされている。しかし、各部位の中で100年の耐用性が期待できるのは基礎と躯体のみであり、それ以外の部分は長期的に見れば定期的な修繕や交換が必要である。
共用部分にあたる外壁や廊下、設備などは、修繕積立金を用いて大規模修繕を定期的に行う必要がある。配管やエレベーターも、おおよそ30年ごとに交換が必要とされている。専有部分の内装についても、各所有者が適宜リフォームを行うことが求められる。
このように、分譲マンションの多くの部分は時間の経過とともに徐々に劣化し、補修、修繕、あるいは交換が不可欠となる。その結果、マンションの価格は築後20年程度までは、1坪あたり年間4万〜5万円のペースで下落する傾向がある。20年を過ぎると価格の下落は緩やかになる。
もっとも、これは平均的な価格変動であり、実際には各戸の状態によって異なる。内装がリフォームされず傷んでいる物件は、さらに価値が下がっている可能性がある一方、最近リフォームされた物件は、相場より高く売却される場合もある。
地価の下落
「土地の価格がこれから先もっと高くなる」、逆に「これから先は下落に転じるだろう」、あるいは「東京はこれから先も土地の需要が上がっていくが地方はこれから先地価が下がっていくだろう」、などいろいろな見解がある。また、市場価格は現在の需要だけでなくこれから先の需要も織り込んでいるはずなので、現在の地価が適正価格だろうと、市場理論に詳しい人なら言ったりするだろう。最後の意見はある意味尤もなのだが、市場で決まった適切な価格から今後上昇や下落することが予想される場合もあることを知っているだろうか。
ここに2つの土地Aと土地Bがあるとしよう。土地Aは、今後も一定の需要が見込まれ、現在と同様の地代収入が継続して得られると予想される。一方、土地Bも現在は土地Aと同額の地代収入を得ているが、将来的には地代収入が減少する可能性が高いとする。このような状況では、土地Bの価格は土地Aよりも低くなると考えられる。
しかし重要なのは、土地Bの価格が単に低いだけでは不十分であり、今後さらに下落していく必要があるという点である。
具体的に考えてみよう。現在から1年間の収益率を比較する(ここでは、同一の収益率が期待されるべきだという仮定で議論を進める)。地代収入は土地A・Bともに同額である。しかし、土地Bの価格は土地Aよりも低い。このままでは、収益率(地代収入/価格)の面で、土地Bの方が有利となってしまう。
これがなぜまずいかというと、土地Bの方が収益率が高いとこの先1年間に関しては土地Bを所有することが他の土地を所有するよりも有利になってしまうからだ。この状況で辻褄が合うためには、土地Bの価格が1年経った時に下がっており、地代収入と地価の変動を合わせた1年の収益率で見た場合には、土地Aと土地Bの収益率が等しくなっている必要がある。
このように、将来の地代収入が減少することが予想される土地は、現在は収益を上げていても、地価が時間とともに下がっていくのが自然である。したがって、将来の地代減少が見込まれる土地は、単に現在の価格が安いだけでなく、今後さらに価格が下落することが予想される。
もっとも、地価が下がるからといって、土地Bが損な土地であるとは限らない。現時点では、土地Bは土地Aと同じ収益(地代)を、より低い価格で得ることができる。これは明確に土地Bを所有する利点であり、現在の地価が将来の地価よりも高く設定されている理由でもある。
つまり、土地Bの現在の価格は、将来の価格下落を織り込んだ上で、現在の収益を正当に評価した結果である。現在と将来の地代収入すべてを考慮した上で、土地Bの地価は適正価格として形成されているのである。
地価の上昇
逆のケースとして、再開発などによって地価が上昇していく場合も考えられる。たとえば、20年がかりの再開発計画が進行している地域を想定してみよう。再開発の初期段階では、インフラや商業施設が不足し、交通の利便性も十分とはいえないことが多い。そのような状況下では、居住者や事業者にとっての土地の利用価値は低く、結果として土地の価格も相対的に安く評価される傾向がある。
しかし、再開発が進行するにつれて居住環境の利便性が向上し、商業施設の収益性も増加することによって、土地の価値は次第に上昇していくと考えられる。このような場合、再開発の開始時点ですでに将来の期待がある程度織り込まれており、地価はある程度上昇している可能性があるが、再開発の進行とともにさらに地価が上昇していくことも十分に起こりうる。
このように、将来的に地価が下落しそうな土地もあれば、上昇しそうな土地も現実に存在している。したがって、「土地の価格が将来どうなるか分からない以上、マンションにおける土地の価値については何も言えない」とする意見は必ずしも正しくはない。
ここで注意すべきは、再開発初期の段階において土地の地価が相対的に安いからといって、その土地が“割安”であるとは限らないという点である。これは、前述の地価下落のケースと同様に、将来の利便性や収益性の向上がある程度織り込まれた上で、現時点の不便さに応じた価格として形成されていると考えるべきである。したがって、このようなケースにおいても、現在の地価は適正価格として妥当な水準にあるといえる。
資産価値の変化の分析
建物部分の価値の下落
建物部分の価値の下落は、専有面積におおむね比例するとされている。したがって、価格の高いマンションAと価格の低いマンションBがあった場合、建物の価値の下落額が同じであれば、マンションAは購入価格に対する価値の下落割合が小さく、マンションBは相対的に大きく下落するということになる。
ここで、「マンションAの方が得である」と考えてよいだろうか。当然、そのようには言えない。
仮に、マンションAとマンションBのいずれも土地部分から同等の収益(あるいは便益)を得られているとすれば、建物部分については単に時間の経過とともに価値が低下しているに過ぎず、両者の価値の下落構造は本質的に変わらないからである。
したがって、マンションAの方が「購入価格に対する資産価値の減少割合が小さい」あるいは「資産価値が落ちにくい」といった理由だけで、Aの方が得だと判断するのは適切ではない。
土地部分の価値の変動
では、土地部分の価値の変動についてはどうだろうか。まず、需要の減少に伴って土地価格が下落していくマンションについて考えてみたい。一見すると、地価が下がっていくマンションは資産価値が維持されず、不利であるように見える。
しかし、ここで思い出してほしい。地価が今後下落していくと予想される土地には、現在時点で比較的高い地代収入(すなわち便益)を得られるという利点がある。そして、そのような将来の下落も織り込んだ上で、現在の地価は適正価格として決定されているのである。
つまり、土地の価値が将来下がっていくマンションであっても、購入当初においては相対的に安価で購入でき、かつそれに見合った便益が得られるというメリットがあったはずである。そうでなければ、本来は土地の価格はさらに安くあるべきであり、結果として分譲マンションの価格もそれに応じて低く設定されていなければならなかったはずである。
次に、再開発などによって地価が上昇していくケースを考えてみよう。この場合も、地価が下落していくケースと同様に、マンションを所有することで得られる便益全体を考慮すれば、経済的な釣り合いが取れていることがわかる。
たとえば、地価の上昇が見込まれる再開発初期の地域では、当初は利便性が低く、住環境や収益性の面で不利な状態にある。そのため、当初の土地の価格は低めに設定されるのが合理的であり、再開発の進行とともに土地の利便性や価値が向上していくのは自然な流れである。
損得の比較
マンションは資産価値が落ちないことが大事なのか
では、「マンション購入においては資産価値が落ちないことが重要である」という主張について考えてみよう。ここまで読み進めてくれた読者には、すでに結論は明らかであろう。すなわち、「資産価値が落ちないこと」そのものが本質的に重要であるとは限らないということである。
結局のところ、土地や建物を含めたマンションの分譲価格が適正であるならば、その価格は将来の価値変動や便益の期待も含めて決定されているはずである。したがって、価格の下落があったとしても、それを含めて合理的に評価されている限りにおいては、購入が得であったとか損であったと単純に言うことはできない。
すでに述べたとおり、重要なのは価格変動の有無ではなく、それを含めて分譲価格が合理的に設定されていたかどうかという点である。
ここからは補足として、マンションの分譲価格が低い(または高い)場合に、将来の価格下落幅が大きかった(または小さかった)ときに、それぞれどの程度の違いがあれば購入時の価格差が正当化されるのかといった点について説明を加える。
マンションの収益率
一般に、分譲マンションの所有と賃貸を比較した場合、自ら分譲マンションを所有することによる収益率は、おおよそ年3%程度であると言われている(ここでは、議論を簡略化するためにインフレ率は0%であると仮定する)。したがって、以下ではマンションの収益率を評価する際の比較の基準として、年3%を目安として採用することにする。
ちなみに、現在の住宅ローン金利は固定でおおよそ年2%程度であり、実質金利は1%程度になると推測される。この実質金利は、10年物日本国債と物価連動国債の利回り差から推定したインフレ率をもとに算出したものである。
このように、住宅ローンの実質的な借入コストがマンションの想定収益率を下回る場合、住宅ローンを活用してマンションを購入することは経済的に有利な選択となる可能性がある。
利回りごとのリターン
マンションの損得を比較する前提として、100万円の資金を一定の利回りで運用した場合、どの程度の金額になるのかを確認しておく。
たとえば、利回り3%で運用した場合、20年後には約180.6万円、30年後には約242.7万円、50年後には約438.4万円になる。
一方、利回り2%で運用した場合、20年後には148.6万円、30年後には181.1万円、50年には269.2万円になる。また、利回り5%で運用した場合は、20年後に約265.3万円、30年後に約432.2万円、50年後には約1147万円になる。
これらの数値は、複利計算による将来価値として算出したものである。これらの計算はこちらを参照した。
マンションが割安だったり割高だったりした場合
ここに3つのマンションがあるとする。マンションAは4,000万円で分譲されており、マンションBは資産価値が落ちやすいが3,600万円で分譲されている。マンションCは資産価値が落ちにくいが4,400万円で分譲されていると仮定する。
まず、マンションB(3,600万円)を購入した場合を考えてみよう。マンションAと比べて購入価格が400万円低いため、その差額を年利3%で30年間運用できたとする。このとき、将来価値は約970.8万円となる。したがって、30年後にマンションBの価格がマンションAよりも970.8万円以内の差にとどまっているのであれば、マンションBを購入したことによって損をしたとはいえない。
次に、マンションC(4,400万円)を購入した場合を考えてみる。マンションAよりも400万円高く購入しているため、同様に考えると、30年後のマンションCとマンションAの価格差が970.8万円以内であれば、マンションCを選んだことによって得をしたとは言えないことになる。
適当な利回りを2%と考えるのであれば、970.8万円という金額を724.4万円に置き換えることで、利回りが3%ではなく2%である場合の判断基準が把握できる。
株式投資と比べてみる
現在、NISA(少額投資非課税制度)を通じた株式投資信託への投資、特に**「オルカン(全世界株式インデックスファンド)」への投資が人気を集めている。株式市場に対する投資の歴史的な平均実質リターンはおおよそ年5%程度**とされている。
仮に、マンション購入にかける費用を節約し、その浮いた資金をオルカンに投資した場合を考えてみよう。たとえば、100万円を年5%で30年間運用できたとすると、将来価値は約432.2万円となる。その他の期間における運用結果については、前述の複利計算による数値を参照すればよい。
もちろん、株式投資には価格変動リスクが伴うが、長期的な平均利回りで見れば、マンションよりも高い収益が期待できる。したがって、将来の資産形成を考えるにあたっては、マンション購入だけにとどまらず、株式等も含めた総合的な資産配分を検討することが重要である。
このように考えると、マンションという資産カテゴリーにおける利回りは、おおむね年3%程度とされており、歴史的には相対的に低い。この点から見ても、「マンション購入では資産価値が落ちないことが大事だ」という主張は、資産形成という観点からは的を外した助言であり、誤解を招く可能性が高い。
現在の日本において長期的な資産形成を志向するのであれば、NISA制度を最大限に活用し、オルカンなどの株式投資信託に資金を振り向けることを積極的に検討すべきである。
結論
結論としては、マンションの価格が適正である限り、「資産価値が落ちにくいから得である」といった単純な判断は成り立たないということである。これは一見するとつまらない結論のように思えるかもしれないが、そもそも市場において明らかに得であったり損であったりする状況が存在するのであれば、そこには価格修正のメカニズムが働くはずである。