不動産

長寿命の住宅をリフォームして住むのが得?

日本の住宅に対する批判としてよくあるのが、「日本の住宅は寿命が短く、資源を無駄にしている。リフォームしながら長く住めば、コスト的にも安くなるはずだ」といった主張である。では、耐用年数の長い家を建てて、そこに長く住むことは本当に経済的に合理的なのか。以下ではその是非について考えてみる。

三つの耐用年数

建物や設備の寿命を考える際に「耐用年数」という概念がある。これは一つではなく、「法的耐用年数」「物理的耐用年数」「経済的耐用年数」の三つがあり、それぞれに意味や使い道が違っている。

法的耐用年数

法的耐用年数というのは、会計上・税務上で定められた耐用年数のことである。企業がビルなどを建てて所有する場合、この年数に基づいて毎年減価償却を行う。木造住宅では22年、鉄筋コンクリート造の住宅では47年と定められており、この期間中、資産価値を毎年減額していくことになる。

物理的耐用年数

物理的耐用年数とは、建物や設備が物理的に使用可能な期間を指す。住宅の居住に支障が出るようになった時点が、物理的耐用年数を過ぎたとみなされる。

経済的耐用年数

経済的耐用年数とは、その建物の利用を継続することが経済的に合理的かどうかで決まる耐用年数である。仮にリフォームすれば住み続けられるとしても、建て直したほうが便益が大きい場合は、経済的耐用年数を超えていると判断される。

経済的耐用年数の損得勘定

建物の現在割引価値

将来の1年分の居住価値は、現在の1年分の価値よりも低いと評価される。したがって、将来のキャッシュフローや便益は割引いて現在価値に直す必要がある。

こちらの記事にも書いたが、不動産投資のリターンは年3%程度で計算するのが妥当である。だが、低金利下では年2%でも許容されうるかもしれない。よって、将来の居住価値についても、年2〜3%で割り引くのが妥当である。

また、マンションなどの住宅では、築年数が1年経過するごとに賃料が1%下落するといった経験則もある。これらを踏まえると、将来の居住の価値を年3〜4%で割り引いて評価するのが適切だと考えられる。

居住の現在割引価値

仮に現在の1年分の居住価値を100とした場合、今後10年間の居住価値の合計は1000にはならない。なぜなら将来の価値は割り引かれるからである。

こちらの割引現在価値の早見表によれば、年率3%では10年間の累積現在価値は74.41、年率4%では67.56となる。つまり、将来の居住の価値はこの程度まで割り引かれて考慮されるということである。

建物の累積割引現在価値

次に、今後10年などの一定期間に渡る居住の価値について考えていく。先ほどのような将来のある年の居住の割引現在価値を今後10年などの一定期間に渡って足し合わせたのが、今後10年などの一定期間に渡る居住の価値である。

こちらの累積割引現在価値早見表を使って説明していく。今後の一定期間における居住価値は、各年の割引現在価値を合算したものとして求められる。以下に、年率3%および4%で割り引いた場合の累積割引現在価値を示す。

  • 年率3%
    • 35年:2,149
    • 50年:2,573(+20%)
    • 70年:2,912(+13%)
  • 年率4%
    • 35年:1,866
    • 50年:2,148(+15%)
    • 70年:2,339(+9%)

期間は、35年から50年で43%、50年から70年で43%延びている。しかし、割引現在価値の増加はそれよりもはるかに小さい。将来になればなるほど価値が小さく評価されるからである。

建築費上昇の損得勘定

たとえば、35年住める家と50年住める家があった場合、建築費の差が20%以内であれば、50年住める家の方が経済的といえる(割引率3%の場合)。50年と70年を比較する場合は、建築費の差が13%以内ならば長寿命の家の方が合理的である。

割引率4%の場合には、35年から50年で15%、50年から70年では9%が費用許容の目安となる。

このように、住める期間が延びても、追加で許容できる建築費はそれよりも小さい比率にとどまる。

このように、長く住める家が経済的に得である場合というのは存在しているが、それは住むことのできる期間の増加よりもかなり小さなものである。また、より将来における期間の増加ほどより少ない建築費の増加しか許容できないことも分かる。

リフォームの損得勘定

リフォームをして長く住むべきか、建て直すべきかの判断に関しても、損得勘定を考えることが大事だ。リフォームをすることによる利便性の向上や住める期間の増加と、その費用を比較して考える必要がある。

住宅はどれくらい長持ちしたらいいのか

上述のように、居住価値は35年から50年で20%弱、50年から70年で10%程度しか増加しない。したがって、これと同程度の建築費の増加で住宅寿命を延ばせるならば、それは合理的な選択であるといえる。

結局のところ、重要なのはあらゆる選択に対して費用対効果を冷静に見積もることである。個人的には、最低35年、できれば50年、我慢できるなら70年住めれば十分だと考える。

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