マンション投資の利回りを比較すると、東京と地方、あるいは新築と中古の間で明確な差があることがわかる。マンション投資に関する情報サイトなどでは、立地や築年数に応じたおおよその利回りの目安が紹介されている。
現在、一般的には地方都市におけるマンション投資の方が、東京よりも利回りが高い傾向にある。このような利回りの差を見ると、「地方のマンションの方が東京のマンションよりも投資として得なのではないか」と考える読者も多いだろう。
本記事では、この疑問について検討していく。
なお、この記事では「地方」と「東京」という形で比較しているが、これは「都心部に近い地域」と「郊外寄りの地域」との対比でも当てはまる。そのため、読者自身の状況に合わせて、適宜読み替えてほしい。
マンション投資の三通りの利回り
マンション投資における利回りの計算方法としては、表面利回り、実質利回り、想定利回りの三種類が、多くの情報サイトなどで紹介されている。まずは、それぞれがどのように利回りを計算しているかを確認しよう。
表面利回り
表面利回りとは、修繕積立金や管理費、税金などの諸経費を考慮せず、マンションから得られる家賃収入のみに基づいて計算される利回りである。
表面利回りは、その物件がどれだけの家賃収入を生み出すかという視点で収益性を測るものである。しかしながら、物件の所有や運用に伴う諸費用を一切考慮していないため、実際の投資収益を正確に表しているとは限らないという問題点がある。
実質利回り
実質利回りとは、家賃収入から修繕積立金、管理費、税金などの諸経費を差し引くことにより、実際に手元に残る収益を基に計算される利回りである。
不動産の所有や運用にかかる諸経費は物件によって異なるため、実質利回りは表面利回りと比べて、より正確に投資収益を評価できる指標である。
想定利回り
マンション投資では、「想定利回り」という指標もよく用いられる。想定利回りとは、現在空室となっている物件について、募集している賃料で入居者が見つかった場合に得られると見込まれる利回りのことである。
ただし、想定利回りはあくまで予測に基づく数値であり、その利回りが実際に実現される保証はないという点に注意が必要である。
どの利回りを使うべきか
表面利回り・実質利回り・想定利回りのうち、どれを用いるのが適切であろうか。
まず、想定利回りは、将来的な入居を前提とした仮定に基づく数値であり、現時点での投資判断には直接的な根拠を与えない。そのため、本質的には重要性が低く、比較対象から除外するのが妥当である。
残る表面利回りと実質利回りのうち、諸経費を考慮している実質利回りの方が、収益性をより正確に評価できる指標であるといえる。
しかし、実質利回りがマンション投資の利回りを測る指標として、最適かどうかが問題である。
正しい利回りの考え方
資産の期待収益率の考え方
こちらの記事で、資産の期待収益率は、インカムゲインと(マイナスになることもある)キャピタルゲインの合計によって構成されるという話をした。
このうち、インカムゲインはマンション投資においては、家賃収入から諸経費を差し引いた純収入に相当する。すなわち、実質利回りがインカムゲインに該当すると考えられる。
では、キャピタルゲインはマンション投資では何にあたるだろうか。
マンション投資におけるキャピタルゲイン
マンションの価格は、地価が変化しない場合でも、時間の経過とともに徐々に下落していく傾向がある。一般的には、築20年までの間、毎年1坪あたりおよそ4万円から5万円ずつ価格が下落するとされている。これは主に、建物本体や設備の価値が年々低下していくことによるものである。
また、築20年を過ぎた後も、マンションの資産価値が下がらなくなるわけではない。老朽化が進行すれば、家賃収入の減少や空室率の上昇といった問題が発生しやすくなる。それを防ぐためには、リフォームや修繕などによって資産価値を維持する必要があり、そのための費用を事前に積み立てておく必要がある。
したがって、こうした資産価値の下落分や、将来的な維持費用を考慮するためには、実質利回りからこれらを差し引いてキャピタルゲインを見積もるべきである。これにより、マンション投資全体としての期待収益率が適切に評価できる。
地価の変動
実は、地価の変動もキャピタルゲインの一部として考慮する必要がある。地価は上昇することもあれば、下落することもあり、一見するとその変動は予測不可能に思えるかもしれない。しかし、現実には、地価が今後下がっていくことがほぼ確実である地域も存在する。
たとえば、ここに「年1坪あたり1万円の地代収入」が得られる土地Aと土地Bがあるとしよう。土地Aは立地条件が良好であり、今後もこの地代収入が継続して得られる見込みがある。他方、土地Bは現時点では同等の収入が得られているが、将来的には需要の減少により地代が減少していく可能性が高い。
このような状況で、土地Aと土地Bが同じ価格で取引されることはない。一般的に、将来の収益が安定している土地Aの方が、高値で取引されるのが自然である。
ところが、利回り(地代 ÷ 地価)という観点で見ると、土地Bの方が土地Aよりも高い利回りを示す可能性がある。すると、仮に来年の土地価格が今年と同じであるとすれば、今年1年間だけに着目すると、土地Bの方が高い利回りを生むため、土地Aよりも「得」だという結果になってしまう。これは一見、矛盾した結果である。
この矛盾を解消し、論理的整合性(辻褄)を保つためには、時間の経過に伴い土地Bの価値が下落していく必要がある。すなわち、需要の低下や将来的なリスクを市場が織り込む形で、土地Bの価格が徐々に下落していくことで、土地Aと土地Bの利回りが同程度になるという均衡が成立する。
正しい利回り計算
以上をまとめると、マンション投資の利回りを正確に計算するためには、実質利回りに加えて、建物部分および土地部分の資産価値の変動を考慮する必要がある。具体的には、実質利回りから建物および土地の価値減少分を差し引くことで、より現実的な利回りを算出できる。
ここでは、このような方法で計算された利回りを「総利回り(トータルリターン)」と呼ぶことにする。
このようにして算出された総利回りは、土地・建物の価格変動を適切に織り込んだ上での収益評価となる。そのため、仮にあるマンションに100万円を投資した場合に、それが1年後にどれだけの利回りをもたらしたかを定量的に評価することが可能となる。
また、この計算式は、投資としてマンションを所有する場合に限らず、自ら居住することで得られる便益を評価する場合にも有効である。すなわち、マンションを所有していることの経済的メリットが、賃貸の家賃と比べてどれくらいの大きさかということを把握する手段としても活用できる。
マンション投資の比較検討
ここまで読んできてくれた人は薄々気づいているかもしれないが、ここからあらためて説明していこう。
地方のマンション投資は得なのか?
地方のマンションと東京のマンションとの違いの一つとして、マンション価格に占める建物部分と土地部分の比率の違いが挙げられる。地方では、建物部分が価格全体に占める割合が東京よりも大きい傾向にある。
一般に、新築から築20年程度までの間、マンションの建物価値は坪あたり年4万〜5万円のペースで減少するとされており、20年を超える頃からその下落幅は緩やかになるといわれている。したがって、価格の下落幅をパーセントで見ると、建物の比率が高い地方のマンションの方が下落率が大きくなる傾向がある。
このことから、地方のマンション投資においては、より高い実質利回りが得られなければ、東京のマンション投資と釣り合いが取れないということになる。
また、土地価格の変動という観点においても、地方の方が不利であると考えられる。先に述べたように、将来的に需要が減少していくと見込まれる地域では、時間の経過とともに地価が下落していく可能性が高い。よって、地方のマンションに投資する場合、地域にもよるが、地価の徐々な下落分を実質利回りから差し引いて考える必要がある。
身も蓋もない結論ではあるが・・・
ここまで解説してきた後で述べるのも何ではあるが、結局のところ、「実質利回り」に含まれていない不利な要素があるからこそ、表面的には「実質利回り」が高く見えるということである。
それらの要素を正しく考慮し、「総利回り」という指標で比較すれば、地方と東京のマンションの利回りはおおむね同程度になるはずである。なぜなら、そうでなければ、どちらか一方のマンションへの投資が明らかに有利となり、投資資金がその地域に集中し、価格が上昇することで利回りが調整されるからである。
市場が一定程度効率的に機能していると仮定する限り、利回りの差は本質的な価値差を反映しているのではなく、未考慮のコストやリスクによる見かけの差にすぎないということになる。
利回りの大小で比較してもいいのか
やや細かい点かもしれないが、マンション投資において地方と東京を総利回りの大小「だけ」で比較することが、適切な判断基準となるのかという問題もある。というのも、地方と東京とでは、将来的なマンション価格の変動リスクに差があるという見方が成り立つからである。
たとえば、東京、特に都心部のマンションは、今後も価値が比較的安定して推移する可能性が高いと予想される。一方で、地方のマンションは、将来的にどの程度価格が下落するかが不透明であり、より高いリスクを伴うと考えることもできる。
このようなリスクの差を踏まえると、投資家がそのリスクを引き受ける代償として、地方のマンションにおいては、より高い利回りが要求されるという状況は十分に考えられる。
ただし、このリスクプレミアムによる利回りの差は、現実にはさほど大きなものではないと見られる。あくまでも補足的な要素であり、利回りの本質的な差異を説明する主要因とはなりにくい。
マンション投資はそもそも得か?
ところで、根本的な問いとして、マンション投資はそもそも推奨される投資先なのだろうか。
結論から述べると、ほとんどの人にとって、マンション投資は全くお勧めできるものではない。これは、正しく「総利回り」を計算してみれば明らかであり、マンション投資の利回りは一般に非常に低く、通常の個人が利益を得るのはかなり困難である。
特に、借入(ローン)を伴う場合には、収支が悪化する可能性が高く、リスクも大きくなるため、投資としての難易度はさらに高くなる。
その理由は明快であり、マンションやアパートの経営には「規模の経済」が働くためである。すなわち、一棟単位で購入・管理を行う場合と比べて、区分所有のように数戸単位で運用する場合には、コストや手間が割高になるという構造的な問題がある。
したがって、マンション投資において好利回りを得るためには、購入時点で割安に物件を取得するか、あるいは賃貸運営において大幅にコストを削減する必要がある。それらを満たせない限り、個人投資家が安定的に高い利回りを上げるのは極めて困難である。
ということで、なぜマンション投資などはせずREITか株式投信でも買っとけという話でした。