日本経済

年金を四倍に増やす方法

タイトルはやや過激であるが、内容はいたって真面目なものである。ここ20年ほど、日本では年金が少ないために高齢者の生活が苦しいという問題が深刻化している。年金の問題をいかに解決するかは、日本の重要な政治課題の一つである。一見すると、年金を増やすためには誰かの負担を増やす必要があるように思えるが、他に手はないのかというのが本稿の主題である。

年金の仕組み

年金とは

年金とは、老後の生活に備えて、現役時代に保険料を納め、一定の年齢に達した後に給付を受ける仕組みである。年金の運営方法には、主に「賦課方式」と「積立方式」がある。多くの制度では、この二つを組み合わせて運用している。

賦課方式

賦課方式とは、現在の高齢者への年金給付を、現役世代が支払っている保険料で賄う方式である。この方式は現役世代から高齢者世代に直接お金が分配されるために、世代間の助け合いという性格を持っていると解釈されることもある。

積立方式

積立方式とは、各労働者やその集団が保険料を積み立てて運用し、将来それを原資として年金を受け取る方式である。積立方式では、それぞれの労働者は自分(あるいは組合などの自分たち)で積み立てた基金から年金を受け取る。

賦課方式と積立方式の違い

両者の大きな違いは、「運用資産の有無」である。賦課方式では、支払った保険料は即座に高齢者への給付に回されるため、運用資産を保有しない。他方、積立方式では保険料は積み立てられ、株式や債券といった資産で運用される。

また、賦課方式には経済成長と連動するという特性がある。現役世代の賃金が上昇すれば、それに応じて年金財源も増え、結果として給付額も増加する。言い換えれば、賦課方式は経済成長に対してある程度の「自然なヘッジ機能」を持っている。

このような制度上の違いが、年金給付にどれほど影響を与えるのかを分析してみたい。

運用がもたらす違い

年金の運用期間

労働者が保険料を支払う期間を20歳から60歳とすれば、その中間である40歳が平均的な拠出時点となる。一方、年金を受け取り始めるのは65歳からで、平均寿命85歳を考慮すると、平均受給開始年齢は75歳程度となる。よって、年金保険料はおおよそ35年間運用されると仮定できる。これは大まかな前提ではあるが、分析には十分である。

運用リターン

35年間の運用によって、積立金がどれだけ増加するかをこちらの資産収益率早見表から以下に示す:

  • 年1%の利回り:1.417倍
  • 年2%の利回り:2倍
  • 年3%の利回り:2.814倍
  • 年4%の利回り:3.946倍
  • 年5%の利回り:5.516倍

一人当たりGDPの成長率

過去35年間の日本における一人当たりGDPの成長率の平均は約0.7%である。アメリカは約1.5%、他の先進国はおおむね1%程度である。ここでは、分析の便宜上、一人当たりGDP成長率を1%と仮定する。

運用先ごとの利回り平均

歴史的なデータ(大規模な戦争などを除外)によると、長期債券の実質利回りは年2%、不動産は年3%、株式は年5%程度である。利回りはリスクとトレードオフの関係にあり、リスクが大きいほど期待利回りは高くなる。運用先は日本国内に限らず、海外資産も対象に含まれるが、平均的な期待利回りは大きくは変わらない。

どれくらい違うのか

賦課方式では、年金給付は経済成長に応じて年1%程度増加することが期待できる。他方、積立方式で年3%の利回りが確保できれば、その差は年2%となる。年5%の利回りであれば、年4%の差となる。

この差を35年間積み重ねると以下のようになる:

  • 年2%の差 → 35年後に約2倍
  • 年4%の差 → 35年後に約3.946倍

このように、積立方式は長期間の運用によって賦課方式に比べて大きな差を生む可能性がある。

年金を増やすには

年金を4倍にする方法

日本の公的年金制度は、基本的に賦課方式を採用している。そのため、受給額が基本的に保証される一方で、支給水準は低めにならざるを得ない。

この制度を積立方式に転換し、積立金を株式など期待利回りの高い資産で運用すれば、平均的には年金を4倍にすることも理論上可能である。より低リスクな年3%程度の運用でも、年金を2倍にすることができる。

現実的な制度設計はどうか

もっとも、積立方式の導入には問題点もある。最大の課題は、将来の給付額が保証されないという点である。そこで多くの国では、基礎年金を賦課方式で運用し、上乗せ部分を積立方式で運用するという形を採用している。この方式であれば、最低限の保障を維持しつつ、平均的な年金額を増やすことが可能である。

日本の年金制度

実は、日本の年金受給額は賦課方式としては比較的高水準にある。基礎年金のみを受け取っている人は確かに低水準にあるが、厚生年金の受給者は、むしろ高すぎるとの指摘もある。給付額が制度的に保証されていることを踏まえれば、現在の支給水準は既に限界に近いとも言える。

したがって、日本の年金制度は「受給額の確実性」を重視して設計されており、逆にいえば、受給額を大幅に増やすためには制度自体の見直しが必要なのである。

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