金融

国債金利から推測する今後の金利

将来のことは確かなことは分からないというのは確かにそうで、今後の日本の金利に関しても確定的なことは何も言えない。しかし、今後の日本の金利の動きに関して、市場が全体としてどのように予想しているのかについては、客観的な事実からある程度知ることが可能である。ここでは、今後10年くらいの間の日本の金利がどのように動いていくと予想されるのかについて、現在知ることのできるデータ(国債金利)から分析してみたい。

国債の金利から分かる将来の金利の予想

現在の国債の金利水準

2025年8月12日現在の満期の長さごとの国債の金利水準を確認しておく。1年満期の利回りが年利0.6%、2年満期が年利0.75%、5年満期が年利1.0%、10年満期が年利1.5%、20年満期が年利2.5%、30年満期が年利3.05%くらいである。これらの国債の金利は、市場で発行者の国と引き受け手の証券会社等が入札などを通じて決定している。そのため、客観的に市場参加者が今後の金利の推移をどのように見ているかの予想を反映していると考えていいだろう。

フォーワード金利

フォーワード金利というのは、将来の2時点間に適用される金利のことである。例えば、現時点から2年後から3年後の1年間お金を貸し出すことを約束したとする。このときに適用されるのが、2年後から3年後までのフォーワード金利である。

現在から1年後までの金利は、1年満期の国債の金利から知ることができる。では、1年後から2年後までの1年間の金利は知ることができるだろうか。これは1年満期と2年満期の国債の金利から推測することができる。

1年満期の国債は元本の0.6%の利息を今後1年間で支払う。2年満期の国債は元本の1.5%(年利0.75%を2年間)の利息を今後2年間で支払う。このことから、1年後から2年後の間の1年間に支払われるべき利息は、元本の0.9%くらいであることが分かる。注意点としては、金利は複利で計算する必要があるのでここや以降での説明と厳密には少し乖離する必要があるが、無視できるくらいだろう。

ここで重要なことは、満期の長さが長くなるにしたがって国債の年あたりの金利が上昇していく場合には、フォーワード金利は国債の年利よりも速い速度で上昇していく必要があるということである。というのは、満期の長さの長い国債の金利が高いということは、満期が長い部分だけ金利が高いのではなく、最初から金利が高いため、その分を考慮するとフォーワード金利は高くならないと辻褄が合わないからである。

(厳密にはここの説明だけでは、すべての金利を正確に導き出せないのだが)同じようにして、n年後から(n+1)年後のフォーワード金利を導き出せる。

注意点

上のフォーワード金利を導き出す方法は、それ自体は正しいアプローチなのであるが一つ注意点がある。実は、現時点から見たフォーワード金利はあくまで現時点から将来の取引を予約する立場から金利を見ているために将来実現される金利の平均から少し乖離しているのである。多くの場合、長期の固定金利債券ほど将来の不確実性から利回りが大きくなっているため、計算されたフォーワード金利は高めに出る傾向がある。この長期の固定金利債券が持つ金利の割り増し分をタームプレミアムと言う。

このような、注意点があるが複数の期間の国債から将来の金利を推測手法は、分析において有効である。次では国債の金利からどのような将来の金利が推測されるのかについてみてみる。

推測される金利水準

10年満期の国債の利回りは年利1.5%である。それに対して、1年満期の国債の利回りは0.6%である。この二つの満期の違う国債の金利の辻褄が合うためには、これから先金利水準は上がっていく必要がある。厳密な計算は省くが、9年後から10年後のフォーワード金利は2.4%くらいになる必要がある。同じような理屈から、20年後から30年後のフォーワード金利は年利で3.5%くらいになる必要がある。

長期国債には、タームプレミアムが存在するために0.2%から0.5%くらい現実の金利は低めになると予想しておく方が賢明であるかもしれないが、今後の日本の金利がこのように上昇していくだろうと、市場が予想していることは気に留めておく方がよいだろう。

物価連動債から推測するインフレ率と実質金利

物価連動債の利回り

日本政府は、10年満期の物価連動債というものを発行している。物価連動債というのは、消費者物価指数と連動して元本が変動することによって、保有者が物価変動のリスクを避けられる設計の国債のことである。

例えば、最初物価連動債の元本が100円だったとする。最初の年に消費者物価指数が2%上昇したとする。すると、元本が102円に修正されることによって、物価連動債の保有者がインフレから保護される仕組みになっている。利息は、通常の国債と同じように元本に利率をかけて計算される。

インフレ率と実質金利

10年満期の普通国債と物価連動債の利回りを比べることによって、今後10年間のインフレ率と実質金利の市場の予想を知ることができる。現在の10年満期国債の利回りは年利1.5%で、10年満期の物価連動債の利回りは年利0%付近である。

このことから、今後10年の実質金利の平均の予想は0%付近であることが分かる。また、今後10年のインフレ率の平均の予想が1.5%であることも分かる。

まとめ

将来のことは確かなことは言えないが、国債の金利から市場が将来どのように金利が動くか、インフレ率が変化するかという予想を知ることができる。

日本の場合、今後金利が上昇していくことが予想されている。しかし同時に、インフレ率も上昇することが想定されているために、今後10年間平均では実質金利は0%近辺になるだろうと予想される。

このような将来の金利の動きの理解は、今後の日本の金利やインフレだけでなく、株価や不動産価格を理解する上でも有用である。株価や不動産価格に関してはまた項を改めた方がいいだろう。

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