金融

インフレで株価が上がるという不思議

現在、日本は消費者物価指数が前年比で3%以上上昇している状況である。生活が苦しいと感じている人も多いかと思う。その一方で、株式市場が活況を呈しており、史上最高値を更新したりしている。一見すると矛盾しているように見える人も多いかもしれない。そこで、インフレがどのようにして、株価を上昇させているのかを説明したい。

以下の説明では、株式市場を中心に解説しているが、実は同じことが不動産市場に関しても言える。そのため、以下の説明を不動産市場に置き換えて理解してもらうことも可能である。

株価の評価方法

現在の株高を理解するには、株価がどのように決まっているのかを理解することが大事である。株価は、市場での取引で決まっているが、市場が割安だと考える株には買いが、割高だと考える株には売りが入る。株価が割高か割安かを判断する方法の一つとして、企業の利益と実質金利から、株価が割安か割高かを考えるというのがある。

企業の利益

株価が適正価格かどうかを評価する上で一番重要なのは、その企業の利益水準である。その企業の利益水準に対して、株価が低ければ割安であるし、株価が高ければ割高である。

企業の利益水準と株価との関係を評価する方法として、株価収益率PER(Price Earnings Raito)がある。これは企業の株価が1株当たりの純利益の何倍かという指標である。最近の日本の株式市場では、15倍から20倍あたりであることが多かった。

例えば、株式市場参加者が適正なPERを15倍と評価しているとしよう。このとき、ある企業の利益が増加すれば、投資家にとってはその企業の株価がその収益性に対して魅力的になる。その結果、その企業の株を購入しようとする投資家が表れて株価が上昇する。

実質金利

株価を決める第二の要因として実質金利がある。所有している資産を、預金と株式に配分することを考えよう。預金と株式では資産としての性質がかなり違う。預金は安全ではあるがリターンでは劣る。それに対して、株式はリスク資産であるがリターンに優れる。

預金と株式に資産を配分するときには、リスクとリターンのバランスを取る必要がある。ここで重要なのは、二つの資産のリターンの差がどれくらいかということである。預金がインフレを考慮した上でどれだけのリターンをもたらすかは実質金利によって表される。例えば、預金の利回りが年利3%でインフレ率が2%の時、実質金利は1%である。

ここで株式の実質リターンが一定だとすると、預金の実質金利が低下すると株式の相対的なリターンが大きくなり、逆に預金の実質金利が上昇すると株式の相対的なリターンが小さくなる。すると、実質金利が低ければ株式が少し割高な状況でも所有するメリットがあり、逆に実質金利が高ければ株式が割安でないと所有する魅力が小さくなる。

結果として、実質金利の水準が株に対する需要を決定し、株価に影響を与えることになる。

なぜインフレで株価があがるのか

現在のインフレの特徴

現在日本のインフレ率は年率3%に達している。一方で、政策金利は0.5%のままである。結果、実質金利は2.5%のマイナスである。

実質金利がマイナスであるために、預金に資金を置いておくよりも株の方が有利だろうという目論見から、株式市場に資金が流入している。これが現在の株高の原因である。

さらに実質金利の低下は円安を招く。円安は輸出企業の業績を向上させる。これも、現在株価が上がっている要因の一つである。

このように、インフレがマイナスの実質金利や円安をもたらしているために、結果として株価が上昇しているのである。

今後の展開

今後、政策金利が上げられていくはずである。それとともに、実質金利のマイナス幅は縮小に向かうだろう。このことは株価の下落要因となるだろう。

問題は、政策金利の上昇がどれくらいの速度で起こっていくかということである。起こる速度が速ければ現在の株価は割高だろうし、ゆっくりと起こるのであれば現在の株価は許容範囲であろう。

このようにインフレが実質金利を下げるとともに、これからの政策金利の上昇がゆっくりであるという期待が現在の株高の原因である。

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