マンションの価格は築年数とともに下落していく。「マンションも一戸建てと同じで価値はどんどん下がる」と考える人もいれば、「マンションは長寿命なので一戸建てと違って価値の下落は緩やかだ」と考える人もいる。また、マンションの建物部分の価値は築年数とともに減少していくが、土地部分は築年数に関係なく価値を維持するはずだという意見も存在する。
このように、マンションの価値が築年数によってどの程度下がるのかについては、さまざまな見解がある。しかし、「マンションの価値が下がるのか」、あるいは「どれくらいの速さで下がっていくか」という問いの前に、まずは「そもそもマンションの価値は最大でどの程度下がり得るのか」を確認しておくことが重要である。そこで、ここでは築年数によってどれくらいマンションの価格が下がる余地があるのかについて考えたい。
ちなみに、ここではマンション需要や土地需要による土地の価格変動や、そのことによるマンション価格への影響については論じない。また、建築費の高騰や下落がマンション価格へ与える影響に関しても議論しない。ここでは、築年数のマンション価格への影響についてだけに議論を限定することにする。
マンション価格の決まり方
基本的なこととして、マンションの新築分譲価格がどのように決まるのかについて確認しておく。
土地と建物
マンション価格は基本的に「土地代+建築費+諸経費+利益」によって構成されている。ディベロッパーはまず土地を取得し、そこに建物を建設し、分譲を行う。土地付きマンションを建てるには、土地代が必要である。定期借地権付きマンションの場合にも、地代が発生する。
建物の建築には、基礎、躯体、外壁、設備、内装などの工事費用が必要である。これらが建築費に含まれる。
ディベロッパーの管理費と利益
土地代と建築費だけでは、分譲価格は決まらない。ディベロッパーの管理費、広告宣伝費、さらに事業利益が上乗せされる。一般的には、土地代と建築費に対して約40%が上乗せされるとされている。結果として、マンション価格の約30%がディベロッパーの諸費用および利益に相当すると見られている。この比率は後の議論で重要な意味を持つ。
マンション価格はどれくらい下がるのか
建物の価値
マンションの建物部分の価値は、築年数とともに確実に減少していく。特に、内装や設備といった部分は20年〜30年で著しく価値を失い、リフォームや交換が必要となる。マンションは100年持つと言われることもあるが、それは主に基礎や躯体の寿命であり、他の部分はそれほど長持ちしない。
したがって、建物部分の価値は比較的短期間で大きく目減りすると考えるのが妥当である。
土地の価値と・・・
マンションで重要なのは「立地、立地、立地」と言われるように、土地の価値が価格に占める比重は大きい。では、土地部分の価値は築年数によって変化しないのだろうか。
土地の価値の部分も下落していく可能性が高い。先ほどのマンション価格の決まり方の話を、思い出してもらいたい。マンションの分譲価格には、土地代と建築費に40%くらいディベロッパーの諸費用と利益が乗っていた。この部分は、実は土地の価値の部分でも建物の価値の部分でもない。マンション開発には必要であるが、それ自体は直接マンションの価値をもたらすものではない。特にこのことは土地代に上乗せされる部分に関して言える。
したがって、マンションの土地価値の部分の内、30%くらいは築年数とともに失われていく可能性が高い。
建て替え前の価値
ここに築100年のマンションがあり、建物が寿命に達したとしよう。この時の、マンションの価値はどれくらいだろうか。
もう建物の価値はなくなっている。土地の価値は残っているが、土地を売るにも、建物を建て替えるにしても、今建っている建物を解体する必要がある。マンションの解体費用は一戸当たり200万円程度が見込まれる。また、解体中は土地からの収入を得られないのでその逸失利益の負担もある。
すると、現在の築100年のマンションが建っている状態の価値というのは、土地の価格からマンションの解体費用と逸失利益を引いたくらいの価値であると言えるだろう。もう建物の価値は完全になくなっている。土地の価値も、ディベロッパーの諸費用と利益の分で30%が失われ、解体費用として一部屋当たり200万くらい必要である。逸失利益は解体にかかる時間が一年として、地価の3%くらいだろうか。
こう考えていくと、マンションの価値は建物の価値が失われるだけでなく、土地の価値とされる部分に関してもかなりの部分が築年数が経つにつれて失われていくと考えるのが正しいように思える。
数値例と結論
1億円のマンションがあったとして・・・
ここに一部屋1億円の分譲マンションがあったとしよう。建物の価値の部分が3000万円、土地の価値の部分が7000万円であると仮定する。
建物の価値の3000万円は、築年数の経過とともにどんどんと失われていく。土地の価値の7000万円に関しても、まず土地部分の30%分の2100万円はマンション開発のための費用としてもう失われている。また、残りの4900万円の部分の一部も解体費用や解体中の逸失利益として失われる。すると、まあ4000万円くらいが土地の価値として残り得る部分だろうか。
つまり、1億円のマンションがあったとしても、建物部分の三割ではなく六割程度まで価値を失い、4000万円程度まで下落する可能性がある。
マンション価格の下がり方
ここでマンションの価格がどのように下がっていくのかについて少し説明しておく。ひと昔前までは、中古マンション価格は築20年くらいまでは年4万円ペースで下落し、そこらへんで下げ止まって下落が緩やかになるというような話もあった。
現在では中古マンションの売買データからそうではないことが分かっているし、最初からそうでなかった可能性も高い。私が中古マンションの売買データ(不動産情報ライブラリ)を分析してみたところ、築20年以降もマンション価格は下落していくし、坪単価の高いマンションほど下落幅が大きいことも分かった。なので、マンションも土地の価値の部分の一部を含めて、価値が築年数と共に下がっていくということである。