割引現在価値
割引現在価値とは何か
割引現在価値とは、将来得られる金額(キャッシュフロー)を一定の割引率で現在時点の価値に換算したものである。将来得られる1円は、現在の1円より価値が低いと考えられるため、現在の価値として評価するには割引率を用いて現在価値に換算する必要がある。
割引率について
割引率とは、将来の価値を現在価値に換算するための利率である。割引率が高いほど将来の金額は現在価値に換算した際に小さくなり、逆に割引率が低ければ将来の金額の現在価値は大きくなる。
割引率は年率を使うことが一般的だが、半年ごとや四半期ごとなど、異なる期間を用いることもある。また、連続複利方式によって割引くこともある。
割引率の決定には、キャッシュフローに伴うリスクが深く関係する。リスクが低い資産の将来キャッシュフローを割引く際は、国債などのリスクが低い資産の利回りを割引率として用いる。一方、将来のキャッシュフローにリスクが高い場合には、そのリスクに応じてリスクプレミアムを上乗せし、より高い割引率が適用される。
\(n\)年後の金額の割引現在価値
毎年の割引率を\(r\)、将来受け取る金額を\(X\)で、その割引現在価値を\(Y\)で表す。一年後に得られる金額\(X\)の割引現在価値\(Y\)は次のように表される。
\[ Y=\frac{X}{1+r}\]
ここで、一年後の金額\(X\)が100円で割引率\(r\)が0.05の時、割引現在価値\(Y\)は約95.24円である。
毎年の割引率\(r\)が一定であるとすれば、二年後に得られる金額\(X\)の割引現在価値\(Y\)は以下のようになる。
\[ Y=\frac{X}{(1+r)^2}\]
これは二年間にわたり、二回分の割引(\((1+r)\)を2回掛ける)が行われていることを示している。二年後の金額\(X\)が100円で割引率\(r\)が0.05の場合、割引現在価値\(Y\)は約90.70円である。さらに同様に、二十年後に得られる金額\(X\)の割引現在価値\(Y\)は次式で表される。
\[ Y=\frac{X}{(1+r)^{20}}\]
二十年後の金額\(X\)が100円で割引率\(r\)が0.05の時、割引現在価値\(Y\)は約37.69円になる。
キャッシュフローの割引現在価値(同じ金額の場合)
次に、毎年一定額のキャッシュフローが無限に続く場合の割引現在価値を考える。毎年の収入を\(X\)とし、割引率を\(r\)とすると、割引現在価値\(Y\)は次のようになる。
\[ Y=\sum_{i=0}^{\infty} \frac{X}{(1+r)^i} = \frac{X}{r}\]
ここで右辺の計算には等比数列の和の公式を用いている。具体的に、毎年のきゃしゅフロー\(X\)が100円で割引率\(r\)が0.05の場合、割引現在価値\(Y\)は2000円になる。
このように、毎年のキャッシュフローが一定で割引率も毎年同じであれば、割引現在価値は簡単に求めることができる。
一般の場合の現在割引価値の計算
より一般的なケースとして、各年のキャッシュフローの金額や割引率が年ごとに異なる場合を考える(ここでは割引率が年ごとに変動する理由については扱わない)。
\(n\)年目のキャッシュフローを\(X_n\)、同じく\(n\)年目の割引率を\(r_n\)とする。このとき、\(n\)年目の価値を現在(0年目)まで割り引くための累積割引係数\(R_n\)を次のように定義する。
\[ R_n = \prod _{i=1}^{n}(1+r_i)\]
念のために言っておくと、上の式は1から\(n\)まで\(1+r_i\)を掛け合わせるということである(ここで定義より\(R_0\)は1である)。例えば、一年目の割引率が0.05、二年目の割引率が0.04の場合、2年後の金額を現在価値に割り引くための係数は\(1.05*1.04=1.092\)となる。
これを用いて割引現在価値\(Y\)は以下のように表される。
\[ Y=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{X_i}{R_i} \]
内部収益率
内部収益率とは何か
割引現在価値に関連する概念として、内部収益率(Internal Rate of Return, IRR)がある。内部収益率とは、将来のキャッシュフローをある割引率で現在価値に換算したとき、その合計が投資額と等しくなるような割引率のことである。言い換えれば、投資案件において割引現在価値がゼロとなるような利率を意味する。
内部収益率を計算する際には、収入をプラス、投資などの支出をマイナスとしてキャッシュフローを扱うのが一般的である。したがって、初期投資のみが発生する場合には初年度のキャッシュフローが負になり、その後の収益は正の値となる。
ここでは、割引率は毎年一定であると仮定する。\(n\)年目のキャッシュフローを\(X_n\)、割引率を\(r\)とする。キャッシュフロー\(X_n\)は、収益から投資を引いたものであり、たとえば0期に投資のみが発生し、その後に収益が続く場合には、\(X_0\)だけがマイナスで、それ以降の\(X_n (n\geq 1)\)はプラスになる)。
内部収益率は、次の式を満たすように計算される。
\[ 0=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{X_i}{(1+r)^{i}} \]
この式において、左辺がゼロであることは、キャッシュフローを内部収益率で割り引いた場合の割引現在価値がゼロであることを示しており、これが内部収益率の定義となっている。
例えば、現在100円を投資し、1年後に105円を受け取る場合、この105円を割引率1.05(すなわち5%)で割り引くと現在価値はちょうど100円となる。このとき、内部収益率は5%である。
また、0期に100円を投資し、1年後に60円、2年後に72円のキャッシュフローを得るような投資においては、内部収益率は20%となる。