Xを見ていたら、次のようなポストが流れてきた。日本企業が投資家優遇で労働者軽視というのは定番の勘違いなのだが、知らない人もいるかもしれないのでここで解説する。
まず、上のポストでは都合のいい開始時点が選ばれているということを指摘しておきたい。というのは、1995年というのは日本企業の配当性向が低く労働分配率が高かった時期にあたるので、そこを起点にすればそれ以降の日本企業が労働者への分配を減らしてきたように見えてしまう。
では、日本企業での株主の取り分がどれくらいかを見るために、上場日本企業のROE(株主資本収益率)を米国・欧州と比較してみる。日本は最新で9.8%、欧州は13.8%、米国は19.3%くらいである。これから分かるように、実は現在でも日本の企業の収益力は低く、株主の株主資本に対する取り分は高くないのである。日本と比べれば、欧州でさえ1.4倍、米国では2倍近い収益力で、これだけの分が株主の取り分になっているのである。
しかし、私がROEを使って株主の取り分を分析したというのも実はポイントである。ROEは、純利益を株主資本で割ってパーセントで表されるので、純利益が増えると増え、株主資本が増えると減る。つまり、企業の利益だけではなく株主資本の量によってもROEは影響を受ける。
日本企業の問題の一つに、自己資本が多すぎるというのがある。現在でも、日本企業の株主還元率は40%から50%と欧州や米国と比べると低く推移している。結果として、内部留保がどんどん溜まってきている。もし、日本企業に高収益な投資先があればいいが、多くの企業にはそういうものはないために、どうしてもROEが低くなってしまう。これは、ずっと株主が増配や自己株買いを要求している理由の一つである。
このように、日本企業のROEが欧州や米国よりも低いので、日本企業が投資家・株主を優遇しているという訳ではないのである。