固定金利か変動金利か
住宅ローンを借りるときに悩むことの一つに、固定金利と変動金利のどちらを選ぶかというのがある。「返済計画が安定するから固定金利がいい」という人もいれば、「変動金利の方が金利が低くて得だ」という意見の人もいる。また、「固定金利と比べた時の変動金利の利率の低さが大きい時には変動金利が得なのではないか。逆に、固定金利と変動金利の利率差が小さい時には固定金利でいいのではないか」というような二つの金利の差で選ぶべきだという考えもよく聞く。
そこで本稿は固定金利と変動金利のどちらを選べばいいのかという問題について考えてみたいと思う。次では、固定金利か変動金利かという判断を下す前に、そもそも固定金利と変動金利はどのように決まっているのかについて説明する。
固定金利と変動金利の関係
固定金利と変動金利には、単純化すると次のような関係がある。
固定金利は将来の変動金利の平均で決まる
まず、基本的なこととして固定金利の利回りは将来の変動金利の予想の平均を取ることによって決まっている。現在、変動金利は固定金利よりもかなり低い。しかし、このことは変動金利が固定金利に比べてすごく得だということを意味しない。変動金利が低いのは現在だけで、将来的には上昇することが予想されている。その結果、固定金利は将来の変動金利の上昇を織り込んで高くなっている。したがって、現在の固定金利と変動金利を比べて、「固定金利よりも変動金利がかなり低いから変動金利を選ぶ」という思考回路で変動金利を選択するのは、まったくの間違いなのである。
長期プレミアム
一般に長期に渡って固定の利率ので貸し出しには、銀行側にリスクがある。将来的に金利が変動するからである。そのため、長期の固定金利の貸出利率は、将来の変動金利の平均の予想よりも少し高くなる。この割増の金利部分は、長期プレミアムやタームプレミアムと呼ばれている。これがあるために固定金利は平均では変動金利よりも金利負担が重くなる。長期プレミアムの大きさは、推定が難しいので断定的には言い難いのだが、0.1%から0.3%くらいと想定するのが妥当であると思う。0.2%として、35年間で元本の4%くらいの負担である。これを大きいと見るか、小さいと感じるかは人それぞれだろう。
繰り上げ返済プレミアム
多くの住宅ローンは繰り上げ返済可能である。これは固定金利で貸す銀行にとっては一つのリスクである。金利が今後上昇すれば昔の低金利の住宅ローンを借り続けることが借り手にとって得である。しかし、もし金利が低下した場合には繰り上げ返済し借り換えることが借り手にとって得となる。しかしながら、この住宅ローンの借り換えは金利の高いものから低いものへの借り換えであるために、利益が減ることになる。このような事情があるため、金利が将来低下し借り換えが起こると想定される状況においては、銀行は固定金利に適当な繰り上げ返済プレミアムを載せて貸し出すことになる。繰り上げ返済プレミアムの大きさは、現在の日本では金利水準が低いためかなり小さいと想定される。
固定金利と変動金利の選び方
判断基準
現在の日本の固定金利住宅ローンでは、繰り上げ返済プレミアムは無視できると考えられる。また、固定金利の内将来の変動金利の平均から決まっている部分は、変動金利の返済負担と同等である。よって、固定金利は長期プレミアムの分だけ返済負担が重いということになる。
だから、固定金利と変動金利のどちらを選ぶときには、変動金利の変動のリスクと長期プレミアムの金利負担とを比較して決めればよい。
間違った主張
ここではいくつかの主張が間違っていることを確認しておく。
固定金利に比べて現在の変動金利が低いから変動金利を選ぶというのは、まったくもって間違った選び方である。固定金利が高いのは将来の変動金利の上昇を織り込んでいるからである。よって、変動金利は将来的には上昇することが予想されているのである。
また、独自に将来の変動金利の推移を予想することによって、変動金利の住宅ローンを勧める人もいる。しかし、銀行や信用金庫の固定金利が現在の水準にあるのは、市場参加者の予想が平均的に織り込まれているからである。したがって、変動金利がそれほど上昇しないと考えるということは、少数派の意見に賭けるということになる。
個人的な意見として
長期プレミアムの分変動金利は得である。それなら、変動金利でいいのではないかというのが私の意見である。注意点としては、変動金利は将来的にある程度上昇することが予想されていることである。そのため、現在の低い変動金利が持続すると期待するのは危ういということを指摘しておきたい。