日本経済

個人向け国債がお得だという話

2025年6月7日

2025年6月1日に個人向け国債が法人でも購入可能になるというニュースがあった(こちら)。これには少し驚いた。というのも、個人向け国債は定期預金などと比べて有利な面があるからだ。

個人向け国債

個人向け国債とは

個人向け国債というのは、日本政府が発行している国債を個人でも購入しやすいように条件を調整し、銀行などの金融機関を通じて個人が購入できるようにしたものである。

そもそも国債とは、国が資金を調達するために発行する債券である。満期は3か月以下の短期国債から、1年、2年、5年、10年、30年といった長期のものまで多様である。国はオークションなどを通じて投資家に国債を販売している。

満期が1年以上の国債については、原則として半年ごとに利子(クーポン)が支払われる。この利子の利率は、満期の長さや発行時点の市場金利に応じて調整される。

個人向け国債は、こうした国債を個人でも比較的容易に購入できるように、購入単位を小さくし、元本保証や中途換金のしやすさなどの特別な条件を加えたものである。

個人向け国債の条件一覧

個人向け国債の条件は次のとおりである。

商品名満期金利タイプ金利設定方法
固定3年3年固定金利基準金利-0.03%
固定5年5年固定金利基準金利-0.05%
変動10年10年変動金利基準金利×0.66

ここでいう基準金利とは、各満期に対応する既発国債の市場利回りである。

固定3年および固定5年の利率は、それぞれの満期に対応する国債利回りから上記の控除幅(スプレッド)を差し引いたものとなる。

変動10年の利率は、半年ごとに見直され、その時点の10年国債の利回りに0.66を乗じたものとなる。なお、いずれの商品にも最低金利0.05%の保証があり、金利が極端に下がった場合でも、この最低利率を下回ることはない。

その他の個人向け国債の特徴

個人向け国債の特徴として、最低金利が定められていること、および途中解約が可能であることが挙げられる。

最低金利として年0.05%が保証されており、市場金利がこれを下回っても、それより低い利率にはならない。

また、個人向け国債は発行から1年が経過すれば、原則として中途解約が可能となる。その際には、直前2回分の利子相当額が差し引かれるという形で、解約ペナルティが設定されている。

個人向け国債はお得か

国債と比べてみると

個人向け国債を一般の国債と比較すると、中途解約が可能であるという点で、非常に大きなメリットがある。一方で、利回りの面では、0.03%や0.05%程度しか不利ではなく、その差は比較的小さい。

たとえば金利が急上昇して、既発の低金利の国債の市場価値が下落した場合でも、過去2回分の利子相当額をペナルティとして支払うだけで、保有している個人向け国債を解約し、より有利な金融商品に乗り換えることができるということである。

通常、一般の国債は中途解約ができず、金利が上昇した場合には既発国債の市場価格が下落し、元本割れを起こすことがある。これに対し、個人向け国債は中途解約を可能とすることで、金利上昇時の価格変動リスクを回避できるように設計されている。

これは、金利変動リスクへの柔軟な対応を可能にするものであり、個人向け国債の大きな利点の一つである

定期預金と比べると

定期預金と個人向け国債を比べてみよう。個人向け国債は、定期預金のように中途解約が可能であるだけでなく、国が発行しているという安心感もある。定期預金には金融機関の破綻時に預金保険によって保障される限度額がある。このことを考慮するとむしろ定期預金の方が利回りが高くないと割に合わないと言えるだろう。

この記事を執筆するにあたり、銀行の定期預金金利を調べてみた。一部のネット銀行においては、個人向け国債の利回りと遜色のない水準のものも見られた。しかし、多くの大手銀行の定期預金利回りは、個人向け国債の利回りと比較して明らかに見劣りする水準であった。したがって、多くの個人にとって、個人向け国債は魅力的な選択肢である。

このように、個人向け国債は、定期預金の元本保証や流動性の高さと、国債の信用力や安全性といった長所を併せ持つ、いわば両者の「いいとこ取り」ともいえる商品である。

なぜこれほど得なのか

まず基本的な点として、個人向け国債を銀行などの金融機関で取り扱ってもらうには費用がかかる。個人向けに販売するためには、各種の設備費や事務手数料などが発生する。そのため(詳細は省くが)、国は個人向け国債の販売額に対しておおよそ0.3%から0.5%程度の手数料を、金融機関に支払っている。

この手数料の支払いがある分だけでも、国にとっては固定3年型および固定5年型の個人向け国債は、一般の国債と比較して財政的に不利な条件で発行されていることになる。

このような、国にとって必ずしも有利ではない条件で個人向け国債が発行されているのは、国債購入者の層を広げ、安定的な資金調達を行うという政策的な意図があるためである。つまり、個人にも広く国債を保有してもらうことに価値があると判断されているのである。

したがって、個人向け国債は、個人の貯蓄を運用する手段として十分に推奨できる商品である

法人が個人向け国債を購入可能になることについて

上に述べたような事情からすれば、法人に対して個人向け国債の購入を認めることは、従来の一般国債の販売との整合性の面で疑問が残るようにも思えた。

しかし、少し調べたところ、すべての法人に対して無条件で現行の個人向け国債と同じ商品が提供されるわけではないようである。条件を変更したうえで、特定の法人に限定して購入を可能にするのであれば、一定の合理性はあると考えられる。

たとえば、現在ではマンションの管理組合において、修繕積立金の積立額や管理費の黒字部分を適切に運用する必要性が生じている。

銀行などが破綻した場合に預金が全額保護されるためには、預金額が元本1,000万円以下であるか、当座預金であるかのいずれかの条件を満たす必要がある

しかし、管理組合が必要とする運用額はかなり大きくなることがあり、すべてを当座預金で保有していては、利回りの面で著しく不利となる。

また、安全性の高い国債での運用を検討しても、一般の国債は原則として満期まで保有しなければならず、途中で資金が必要となった場合には市場で売却する必要があり、その際に元本割れが生じるおそれがある。

こうした問題に対処するために、現在では住宅金融支援機構が「スマイル債」などを発行し、マンション管理組合でも購入可能とされている。

これと同様に、個人向け国債の法人向けバージョンのような商品が制度的に設計されるのであれば、それは合理的な対応であると言える。

-日本経済